大正当時の日本政府の公費にてドイツ留学を済ませた北大の教授が日本に帰国される時、
ピアノ以外の荷物は船と共に海に沈んだそうです。
唯一別便で送られ、生き残ったこのピアノ。
燭台と譜面台の下にあるべき銘板が欠落していました。
胡桃の木の根の部分を外装の化粧板に、豪華な彫刻のある素晴らしい楽器です。
楽器本体にはどこにもメーカーを示す記述がありません。
唯一、鍵盤のカバーに
《Georg Hoffmann ,Berlin S.W.19.》
とあります。
Georg Hoffmann は、PianoAtras(アメリカ版)によると1804年に最初のグランドピアノを製作とあります。
ドイツ版では1903年~1929年の存在が知られ、1927年までには26000番の製造番号が確認されています。
このピアノの製造番号はおそらく1414番。
製造年の確認はできていませんがその構造から19世紀後半と思われます。
美しく唐草文様が書かれた鉄骨はくりぬきの「半鉄骨」。
アクションはダンパーがハンマーより高い位置にある「オーバーダンパー」。
85鍵盤は現代のものより3つ少ない。
真鍮製のペダルにも美しい彫刻が見られます。
彫刻は欠落もなく、響板も比較的良い状態です。
30年ほど前に浜松の工房で弦と調律ピンの交換を中心とした修理が施されています。
中音部のピン板(調律ピンが打ち込まれている堅い板)が弦の張力に負けて割れてしまい、音程を保てなくなっているのが非常に残念でした。
しかし、アクションの状態は良好で聞こえてくる音色は明るく非常に伸びやかでした。
このピアノを必要とする方がおられないでしょうか・・・。